オルカンという精神安定剤を、私はゴミ箱に捨てた
そろそろ新NISAの来年の予約をしなくては……。私は巨大な器を前にして立ち尽くしていた。年間360万円、最短5年で1800万円。この生涯の配分を何に託すべきか。オルカンとS&P500、どちらを選ぶか。オルカンという無難な正解に逃げるか、それとも。スマホの画面を凝視し、注文ボタンを前にこれほど指が震えたのは、初めての経験だったかもしれない。
これは、迷い、疑い、そして最後に傲慢なまでの確信へと辿り着いた、ある投資家の偏執的な記録である。
※思考には長さが要る。この文章も例外ではない。よって今回は全3部構成だ。
表の数字は2026年1月時点の最新確認値(Net Total Return、USDベース、配当再投資込み)。微差はソースによる丸め誤差。
表の数字は2026年1月時点の最新確認値(Net Total Return、USDベース、配当再投資込み)。微差はソースによる丸め誤差。
為替マジックという、もっとも退屈な正体|2025年オルカン逆転の真実
2025年、巷ではオルカンがS&P500のリターンを上回ったと話題になっている。新NISAから投資を始めた大衆は手のひらを返し、これからは分散の時代だと合唱を始める。
だが、その実態を冷静に分解すれば、拍子抜けするほど単純な構造が見えてくる。主因は企業の競争力でも、経済覇権の交代でもない。為替である。
2025年は、それまで続いた円安ドル高が修正され、円高に振れる局面が存在した。円建てで評価する場合、米ドル建て資産の比率が極めて高いS&P500は、その影響を正面から受ける。
一方、オルカン(MSCI ACWI)は米国以外の先進国・新興国を含むため、円高局面では為替影響が相対的に分散され、結果として円建てリターンが相対的に見劣りしにくかった。それ以上でも、それ以下でもない。
これは実力差の証明ではなく、通貨という外生変数による見かけの順位変動に過ぎない。もちろん米国企業の収益力という構造的要因も無視はできないが、それをもって今回の逆転を説明するのはやや無理がある。
ドル建てリターンの冷徹な比較|S&P500 vs オルカン 2008〜2025年
為替というノイズを排除したドル建て(現地通貨ベース)の実力はどうなのか。短期的な逆転劇に酔いしれる前に、まずはこの冷徹な数字の羅列を眺めてほしい。
| 年 | S&P500 | オルカン(ACWI) | 相対的に良かった方 |
|---|---|---|---|
| 2008 | -37.0% | -42.1% | S&P500 |
| 2009 | +26.5% | +35.4% | オルカン |
| 2010 | +15.1% | +13.2% | S&P500 |
| 2011 | +2.1% | -7.4% | S&P500 |
| 2012 | +16.0% | +16.8% | オルカン |
| 2013 | +32.4% | +22.8% | S&P500 |
| 2014 | +13.7% | +4.2% | S&P500 |
| 2015 | +1.4% | -2.4% | S&P500 |
| 2016 | +12.0% | +7.9% | S&P500 |
| 2017 | +21.8% | +24.0% | オルカン |
| 2018 | -4.4% | -9.4% | S&P500 |
| 2019 | +31.5% | +26.6% | S&P500 |
| 2020 | +18.4% | +16.3% | S&P500 |
| 2021 | +28.7% | +18.7% | S&P500 |
| 2022 | -18.1% | -18.4% | ほぼ互角 |
| 2023 | +26.3% | +22.3% | S&P500 |
| 2024 | +25.0% | +17.5% | S&P500 |
| 2025 | +17.9% | +22.3% | オルカン |
分散は正義だと、誰が決めたのか。為替という偶然に救われただけの勝利を、私は実力とは呼ばない。ここで私は、安心という皮を剥ぐ。次は、もっと厄介な選択の話だ。
【第1部まとめ|オルカンvsS&P500、2025年逆転の正体】
- 2025年のオルカン逆転は、企業競争力ではなく円高による為替効果が主因
- ドル建てで比較すると、2008〜2025年の18年間でS&P500が勝利した年は13勝4敗1引き分け
- オルカンの分散効果は円高局面では為替リスクを和らげるが、それは実力差の証明ではない
- 短期の逆転劇に惑わされず、ドル建て実績という冷徹な数字で判断する必要がある