
毎年12月になると、最高級のスーツを着た米国の証券会社のエリートたちが、スーパーコンピュータと高給取りの知性を総動員して「来年末のS&P500予想」を提示する。
その精度を調べてみると、驚くべき数字が出てきた。47〜48%だ。
近所の公園でハトに餌をやっているおじいちゃんが「なんとなく上がる気がするっぺ」と言うのと大差ない。コインを投げて表が出たら上昇と決めた方が、むしろ統計的に優秀という結論になる。
それでも私たちは毎年この予想に注目し、一喜一憂する。人間とはそういう生き物だ。そして、そういう生き物であることを自覚しながらも直せないのが、また笑えるところでもある。
投資銀行のS&P500予想は当たらない?GS・MS・JPモルガンの実態
個別に見ると、その外しっぷりはもはや芸術的だ。
ゴールドマン・サックス(GS)は2022年に7%の上昇を予測して19%の下落を食らい、懲りずに2023年は慎重スタンスを取ったら26%爆騰された。彼らが右と言えば左、左と言えば右。一定数の投資家が「GSの逆を行く」という戦略を真顔で検討し始めているのは、笑えない冗談だ。
モルガン・スタンレー(MS)のマイク・ウィルソン氏は2022年の暴落を当てて一躍時の人になったが、その後の上昇相場では弱気を貫き通し、上昇分を丸ごと見物するという偉業を達成した。壊れた時計も一日に二回は正しいと言うが、彼は一回正しかった後に電池が切れたらしい。
JPモルガンは2025年にトランプ関税で市場が混乱すると予測し、わずか2ヶ月で撤回した。予測の賞味期限は納豆より短い。冷蔵庫に入れておく意味すらない。
各社の予想がバラバラすぎる問題:同じプロなのに1,500ポイントの開き
そもそも予想の精度以前に、各社の予想値が笑えるほどばらついている。2025〜2026年末にかけての主要機関の予想を並べるとこうなる。
| 機関名 | 対象年末 | 予想値 |
|---|---|---|
| ドイツ銀行 | 2026年末 | 8,000 |
| UBS | 2026年末 | 7,500 |
| 野村證券 | 2026年末 | 7,200 |
| バンク・オブ・アメリカ | 2026年末 | 7,100 |
| ウェルズ・ファーゴ | 2025年末 | 7,100 |
| シティグループ | 2025年末 | 6,600 |
| HSBC | 2025年末 | 6,500 |
| バークレイズ | 2025年末 | 6,450 |
同じ市場を見て、同じデータを分析して、最大で1,550ポイントの開きが生まれる。これはS&P500の約20%に相当する。「プロの予想」という括りの中で、すでにこれだけの振れ幅があるのだから、どれかが当たるのは統計的に当然ともいえるし、外れるのも当然ともいえる。
各社の予想値が大きく異なるのは、使っているモデルや前提条件が違うからだ。景気成長率の仮定、FRBの利下げ回数、企業業績の見通し、地政学リスクの織り込み方……変数が多すぎて、「正しい答え」がそもそも存在しない。予想値の開きが大きいほど、市場の不確実性が高いサインでもある。
なぜ投資銀行は下落予測を出さないのか
2000年以降、主要投資銀行が年間の下落を予測したことは一度もない。平均8.8%の上昇予測を出し続ける姿は、アナリストというより株価上昇教の熱心な布教者だ。
理由はシンプルで、彼らは株を売るのが商売だ。自分の店の商品を「来年は腐るかもしれません」と言う商人はいない。たとえ実際に腐りかけていても、ポップには「旬の味わい」と書くものだ。
投資銀行のS&P500年末予想には構造的な上昇バイアスがある。彼らの商売は株式の売買を促進することであり、弱気予測はビジネス上のデメリットが大きい。予想はひとつの参考情報に過ぎず、それを根拠に売買判断するのは危険だ。
2025年が証明したこと:予想が正しくても、経路は誰も読めない
2025年は「予想が当たっても意味がない」を体現したような年だった。
年初、多くの機関が「2025年も上昇」と予測していた。結果的にS&P500は年間で約16%上昇し、3年連続の二桁上昇を達成した。数字だけ見れば「予想的中」だ。
しかし中身はというと、4月2日のトランプ関税発表で翌日に急落、4月8日には年初来マイナス15%まで叩き落とされた。一日で約290兆円の時価総額が消えた。「年末に上がる」と言っていたアナリストたちは、この急落局面で何と言っていたか。それぞれ「一時的だ」「想定内だ」「むしろ買い場だ」とバラバラな見解を出していた。
その後、相場は急回復して年間39回の最高値更新を記録した。「上昇予想」は当たったが、経路を正確に読んだ人間はほぼいない。年末の数字を当てることと、途中の動きを読むことは、まったく別の話なのだ。
・年初来騰落率:約+16%(3年連続二桁上昇)
・年間最高値更新回数:39回
・4月急落時の最大下落幅:年初来約−15%
・急落から最高値圏回復までの期間:約6ヶ月
「上昇を当てた」アナリストの大半は、4月の急落も、その後の急回復も読めていなかった。
株価予想に頼らない投資が、結局いちばん強い理由
予測と実績の平均乖離が14.2ポイント。この数字を埋めているのは予測能力ではなく、外れた時に涼しい顔をしていられる鈍感力だ。彼らは外しても首にならない。そういう仕組みになっている。
一方、私たちは外したら自分の資産が減る。対等な競技ではない。
だからこそ、脳の判断に頼らない仕組みを作る必要がある。予想を無視し、積立設定をして、あとは放置する。2025年の急落局面でも、積立を止めなかった人間が最終的に報われた。この上なく退屈で、この上なく合理的な結論に、みんな最終的には辿り着く。
- 主要投資銀行のS&P500年末予想の的中率は約47〜48%で、コインを投げるより低い
- 2000年以降、年間下落を予測したことは一度もない(構造的な上昇バイアスあり)
- 各社の予想値は最大1,500ポイント以上ばらつく。同じプロが同じ市場を見て、これだけ見解が割れる
- 2025年は「上昇予想が当たった年」だが、4月急落・急回復という経路は誰も読めなかった
- 株価予想に一喜一憂するより、分散積立+長期保有+放置が合理的かつ精神的に健全