
証券口座を開けば、そこには目が眩むような赤色の洪水が広がっている。客観的に見れば、私は投資の成功者という面構えで街を歩き、道ゆく新米投資家に上から目線のアドバイスを垂れ流しても許される立場にいるはずだ。
だが、心は少しも晴れない。広大な赤の平原の中に、冷徹な青がポツンと二つ、こちらを嘲笑うかのように鎮座しているからだ。821万円の含み益を、たった283円の含み損が打ち消している。これが損失回避バイアスの現実だ。
含み損の犯人はメガ10|米国グロース株インデックスの落とし穴
この目障りな青色の正体は、ニッセイ・S米国グロース株式メガ10インデックスファンドだ。特定口座でマイナス83円、NISA成長投資枠でマイナス200円。合計283円の含み損を抱えている。
一方で、SBI・V・S&P500が189万円以上の利益を叩き出し、旧つみたてNISA枠に至っては257万円のプラスでどんちゃん騒ぎをしている。そんな中、このメガ10ときたら一人隅っこで青ざめた顔をして座り込んでいる。
損失回避バイアスとは何か|ダニエル・カーネマンのプロスペクト理論
ここで、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンの理論を借りよう。彼はプロスペクト理論において、人間は得をする喜びよりも損をする痛みを約2倍近く強く感じるという損失回避性を説いた。
行動経済学の父・ダニエル・カーネマンが提唱した理論。人間は「1万円得する喜び」よりも「1万円失う痛み」を約2倍強く感じるように認知が歪んでいる。これが投資家の売り時の判断ミスや、含み損への過剰反応を生む根本原因とされている。
私の脳内では今、まさにその理論が荒ぶっている。821万円の含み益という莫大な喜びは、たった283円の青い数字がもたらす痛みの前に、無残にも敗北しているのだ。
合理的に考えれば、283円なんて全資産の0.001%にも満たない誤差だ。うまい棒を数本我慢すれば済む話である。それなのに、画面を開くたびに私の目は189万円の利益を素通りし、200円の青い数字を精密誘導ミサイルのごとく探し当ててしまう。
含み損の金額が資産全体に対してごくわずかであっても、人間の脳はその損失を過大評価する。これが「狼狽売り」や「利益確定が早すぎる」といった非合理な行動につながる。メガ10の283円に私の目が吸い寄せられる現象は、教科書通りの損失回避バイアスそのものだ。
器がナノサイズの投資家が見出した哀しき悟り|283円が果たす役割
この283円の青は、私を現実に繋ぎ止めてくれる幸運の重石なのかもしれない。もし画面がすべて赤一色だったなら、私はきっと自分が投資の天才だと勘違いし、傲慢な人間になっていただろう。このわずかなマイナスが、お前はまだ缶コーヒー1本分すらこのファンドで稼げていない凡人だと冷や水を浴びせてくれている。
この青い数字が赤に変わったとき、私のポートフォリオは真の完成を見るだろう。だが、その頃にはまた別の新入り銘柄がマイナス50円とかで私をブルーな気分にさせてくれるに違いない。
- 人間は利益の喜びより損失の痛みを約2倍強く感じる(プロスペクト理論・損失回避性)
- 283円は全資産の0.001%以下。合理的には誤差だが、脳はそう処理してくれない
- 含み損が気になって口座を頻繁に開く行為こそが、長期投資の最大の敵になる
- 結局のところ投資とは、数百万の利益を数百円の苛立ちで相殺し続ける、終わりのない精神修行だ