祖父が株で30万円を溶かしたのは、私がまだ生まれる前の話だ。
父からは「絶対に株に手を出すな」と厳命されていた。根拠の薄い、呪いのような家訓だが、私はそれを長らく守り続けた。とはいえ忠誠心からではない。単に証券口座を開くハードルが高くて面倒臭かっただけだ。
2006年、職場に証券会社のお姉さんが個人年金の説明という名の営業にやってきて、私はついに重い腰を上げた。結局商品は買わなかった。利回りが低すぎて話にならなかったからだ。だが、これがパンドラの箱、いや、ただの証券口座を開くトリガーになった。
そこから2年後、リーマンショックという名の巨大な波に飲み込まれ、見事な含み損を抱えて完全撤退するまでの、笑えないが笑ってほしい私の歴史を語ろう。
- なぜ投資信託ではなく日本株現物から始めたのか
- 太陽光バブルとフェローテック|私が乗り込んだ2006年の相場
- リーマンショックで全売却・完全撤退のゴング
- この失敗は避けられたのか?投資初心者が陥る構造的な罠

なぜ投資信託ではなく日本株現物から始めたのか
イー・トレード証券(現・SBI証券)に口座を開設した私が最初に向かったのは、手堅い投資信託の売り場ではなく、欲望が渦巻く日本株の取引画面だった。
当時の投資信託といえば、大衆的には「手数料が高くて中身がよくわからない怪しい代物」というイメージが強かった。銀行の窓口で勧められる、よくわからないパッケージ商品。そういう胡散臭さが業界全体に漂っていた時代だ。
それに比べれば、自分で銘柄を選んで買う個別株のほうが、まだ話が単純に見えた。少なくとも「よくわからないものに金を預ける」という不気味さはなかったのだ。
太陽光バブルとフェローテック|私が乗り込んだ2006年の相場
2006年前後、市場は太陽光発電関連銘柄で謎の熱狂に包まれていた。環境意識の高まりとともに「これからは太陽光パネルの時代だ」と叫ばれ、関連銘柄に思考停止したマネーが流れ込んでいた時期だ。
私のメインの投資先は「フェローテック」。シリコン製品や太陽電池関連部材を手がける、当時のムーブメントのど真ん中に鎮座する銘柄だった。他にもいくつか手を出していたが、なけなしの資金の主砲はここに向けていた。
今振り返れば、テーマ株に乗っかるという行為の恐ろしさを1ミリも理解していなかった。「なぜこの銘柄が上がっているのか」「どこまで上がる算段があるのか」「何が起きたら下がるのか」。そんな野暮なことは考えない。ただ「太陽光が来てるらしいぞ」という、居酒屋の噂話レベルの空気感だけで株を買っていたのだ。
リーマンショックで全売却・完全撤退のゴング
2008年9月、あのリーマン・ブラザーズが盛大に破綻した。
市場全体が阿鼻叫喚の地獄絵図と化し、浮かれていたテーマ株は真っ先に、そして容赦なく奈落の底へ叩き落とされた。フェローテックを主力としていた私のポートフォリオも、見るも無惨な壊滅的含み損を抱えることになった。
結果どうしたか。最終的に全銘柄をぶん投げ(全売却)、完全撤退した。売却後、私は半年ほど相場から完全に目を背けた。口座にログインすることもなく、株価のニュースも見ず、投資の「と」の字も考えないようにした。「絶対に株に手を出すな」という父の呪いの言葉が、実は真理だったのではないかと本気で思い始めていた。
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この失敗は避けられたのか?投資初心者が陥る構造的な罠
テーマ株に雰囲気で乗り、暴落にビビッて狼狽売りし、市場から退場する。失敗の構造としては教科書に載せたいほど見事なテンプレだ。だが、この問題を解剖していくと、いくつかの致命的な層に分かれていることがわかる。
まず第一に、「なぜその銘柄を買うのか」という確固たる根拠がなかった。太陽光が伸びるというふわっとした期待はあったが、フェローテックのビジネスモデルの優位性や財務状況を分析したわけではない。
第二に、暴落時に「持ち続ける理由」がなかった。明確な根拠を持たずに買った銘柄は、株価が暴落したときに「なぜこれをホールドすべきなのか」を自分自身に説明できない。自分を説得できない人間は、恐怖に飲み込まれ、一番売ってはいけない大底のタイミングで手放すことになる。
振り返れば、投資信託を「怪しい」と切り捨てて個別株に向かった私の判断も、見事なフラグ回収だった。当時の高コストな投資信託と比べてどちらがマシだったかは微妙なところだが、少なくともテーマ株への一点突破より、分散投資のほうがダメージは確実に浅く済んだはずだ。
- 投資信託は怪しいと直感し、日本株現物からスタート。当時の時代背景としては情状酌量の余地があるが、「個別株のほうが安全」という判断は完全に真逆だった。
- フェローテックを中心に太陽光テーマ株へ特攻。根拠なくノリで買ったテーマ株は、暴落時に握力を保つ理由が一つもない。
- リーマンショックで被弾し、全売却・完全撤退。その後半年間、現実逃避して相場を完全無視。
- 「わかりやすい」と「理解している」は似て非なるもの。個別株は後者がなければただのギャンブルだ。
- 買う理由がない銘柄は、暴落時に最悪のタイミングでの売却を誘発する。
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