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ポテチが白黒になった理由とは?ホルムズ海峡封鎖・ナフサ不足で日本のサプライチェーンが壊れている【2026年5月】

ホルムズ海峡封鎖によるナフサ不足で、白黒印刷されたカルビーポテトチップスと、背景に石油コンビナート、タンカー封鎖を描いた、日本の石油危機を象徴する画像

 

ポテトチップスの袋が突然、遺影のように白黒になる。

そんなニュースを目にしたとき、私はまたどこかの意識高い系代理店が仕掛けたSDGs的なリニューアルかと斜に構えていたが、予想は見事に外れた。

原因はホルムズ海峡封鎖とナフサ不足だ。

2026年5月12日、カルビーが公式に発表した。

ポテトチップスやかっぱえびせん、フルグラなど14品のパッケージを、5月25日週以降の出荷分から2色刷りに変更する、と。

理由は中東情勢の緊迫化による印刷インクの調達不安定化。

ポテ坊やまで、消されてしまった。

なぜ中東のドンパチでポテチが白黒になるのか。

そこには、原油から化学品が生まれ、我々の怠惰で快適な生活を根底から支えているという、普段は誰も気に留めない残酷なサプライチェーンの構造がある。

この構造を知らずに相場を眺めるのは、あまりに滑稽で勿体ない。

私自身の備忘録も兼ねて、この静かな狂乱を整理してみることにした。

 

ホルムズ海峡封鎖とは?2026年2月に何が起きたのか

惨劇の引き金が引かれたのは2026年2月28日だ。

米国とイスラエルによるイラン攻撃に対する報復として、イランがホルムズ海峡を事実上封鎖した。

ホルムズ海峡。

ペルシャ湾と外洋をつなぐ最狭部わずか約33kmのチョークポイントであり、日本の原油輸入の約90%がここを通過している。

ここが塞がれるということは、日本へ向かうタンカーの首根っこを掴まれたも同然だ。

迂回ルートとして喜望峰(アフリカ最南端)を回れば、時間も輸送コストも絶望的に跳ね上がる。保険料に至っては従来の10倍以上に急騰したという。

2026年5月現在も解決の糸口は見えず、海運各社は血の涙を流しながら迂回を余儀なくされている状況だ。

ホルムズ海峡は最狭部約33km。日本の原油輸入の約90%、ナフサ輸入の約82%がこのルートを経由している。ここが1本止まると、日本の石油化学産業は即座に窒息する構造になっている。

ナフサとは何か?印刷インクとプラスチックを生む石油化学の出発点

原油が止まればガソリンが値上がりする。

そこまでは株をやっていなくても小学生でもわかる。

だが、今回の危機の本質はそこではない。ナフサという、一般人には馴染みの薄い物質が枯渇していることが最大の脅威なのだ。

ナフサとは、原油を精製する過程で抽出される液体成分だ。

ガソリンと似た顔をしているが、こいつは燃やして終わる燃料ではない。

石油化学製品の原料だ。

ナフサをクラッカー(分解装置)で叩き割ると、エチレンやプロピレンといった基礎化学品が生まれる。

そこからプラスチック、合成ゴム、合成繊維、塗料、医薬品の容器、そして印刷インク……要するに、現代人が依存しきっている製品のほぼすべてが錬成される。

ポテチの袋も、新築の浴槽も、断熱材も、塗料も、配管も。

我々の周りにあるものは、親の顔より見たナフサ由来なのだ。

ナフサの供給構造(覚えておくと絶望が速い) 日本はナフサ輸入の約74%を中東産に依存している。原油には手厚い国家備蓄(約250日分)があるくせに、なんとナフサには国家備蓄制度が存在しない。民間の在庫はわずか約20日分。「原油はあってもナフサは20日で尽きる」──これが2026年の日本が抱える、あまりに間抜けで致命的な構造的欠陥だ。

ナフサ不足の影響範囲とは?TOTO・カルビー・日本ペイントまで全方位で波及

ナフサが消えればどうなるか。

真っ先に悲鳴を上げたのは建築・住宅設備の分野だ。

TOTOがユニットバスの新規受注を一時停止し、LIXILも供給条件の調整に追われている。

日本ペイントは建築用シンナーを約75%という暴力的な値上げに踏み切り、カネカは住宅用断熱材を40%引き上げ、積水化学工業も塩ビ管などの価格改定を決定した。

マイホームの夢はナフサと共に消え去りつつある。

印刷・包装の分野も地獄絵図だ。

サカタインクスや日本ペイントの大手メーカーが新規受注を制限。TOPPANホールディングスは包装資材の仕入れ値が2〜3割増えたとして、メーカーへの値上げ打診に走っている。

食品分野も当然無傷ではない。

調査によれば、食品・飲料メーカーのすでに4割がナフサ不足の直撃を受けているという。

プリンの販売休止すら検討される始末だ。そしてついに、カルビーのポテチは白黒になった。

分野 主な動き
住宅設備 TOTO:ユニットバス新規受注停止/LIXIL:供給条件調整中
塗料・断熱材 日本ペイント75%値上げ/カネカ断熱材40%値上げ
包装・印刷 サカタインクス受注制限/TOPPAN包材2〜3割値上げ打診
食品容器 プリン販売休止検討/ポテチ14品パッケージ2色化
石化メーカー 三菱ケミカル・出光興産・三井化学がエチレン設備を相次いで減産発表

なぜポテチのパッケージが白黒になるとナフサ節約になるのか

ここからが少し皮肉で面白い話だ。

なぜ色が減るとナフサ不足の対策になるのか。

日本の食品パッケージ印刷には、長らくグラビア印刷という手法が使われてきた。

写真のような鮮やかな再現性を誇る、日本のお家芸とも言える技術だ。

欧米が環境負荷の低いフレキソ印刷(水性インク)へさっさと移行したのを横目に、日本の食品メーカーは売り場の映えと品質への執着からグラビアを使い続けた。

このグラビア印刷のインクには溶剤が不可欠であり、その溶剤こそがナフサ由来の石油系化学品なのだ。

使う色が増えれば増えるほど、溶剤も大量に消費する。

つまり色を減らす=溶剤(ナフサ)の消費を減らすという、極めて物理的な節約術なのである。

とはいえ、じゃあ今日からインク2色でよろしく!と簡単にいく話ではない。

2色刷りに切り替えるには新しいデザインを起こし、シリンダー(版)を物理的に作り直す必要がある。

製版だけで通常1〜2週間は吹き飛ぶ。

カルビーがこの短期間で白黒パッケージを市場に投入できたのは、裏で相当な危機感を持って準備を進めていた証拠だろう。

ポテ坊やは無駄死にしたわけではないのだ。

日本のお菓子メーカーが店頭での美しい見栄えへの執着を限界までこじらせた結果、欧米より転換コストが高くつく羽目になった。世界に誇る日本の品質へのこだわりが、有事において見事な弱点として露呈するとは。まったく、笑えないジョークだ。私も含め、過剰包装に慣れきった消費者のツケが回ってきただけかもしれないが。

政府のナフサ確保済み発言とエチレンプラント稼働率最低更新の矛盾とは

政府は2026年3月の時点で国内消費約4ヶ月分相当のナフサを確保できる見込みと胸を張っていた。

だが現実はどうだ。

現場からは材料が入ってこないという普遍不満の声が絶えない。

なぜこんな大本営発表のようなズレが生じるのか。

答えのひとつが、あのガソリン補助金の副作用だ。

政府はガソリン価格を170円台に抑え込むため、1リットルあたり最大48.8円もの補助金を突っ込んでいる。

精製会社からすれば、ガソリンを作れば国から金がもらえるが、ナフサを作っても一銭の補助もない

原油価格が高騰する中で、ナフサの生産を絞ってガソリンを優先するのは、企業として至極真っ当な経営判断だ。

結果として、国内エチレンプラントの稼働率は2026年3月時点で68.6%まで沈んだ。

これは1996年の統計開始以来の最低水準だ。産業の血液が、皮肉なことに国民の生活を守るという善意の政策によって止血されているのである。

備蓄制度のザルっぷりも酷い。

原油の国家備蓄(約250日分)は燃料としての備蓄であり、化学原料であるナフサは法の対象外だ。

民間在庫のたった20日分に、現代の巨大産業がすべてぶら下がっていた。

巨大な法の抜け穴に、日本のサプライチェーンが見事に転落している。

ナフサ不足はいつ終わるのか?投資家として考えること

2026年5月現在、ホルムズ海峡問題の出口はまったく見えていない。

米国務長官ルビオは民間船員10人以上の死亡を確認しており、情勢は泥沼化の様相を呈している。

最悪のシナリオ(日本の産業全体の心肺停止)は、政府の備蓄放出と企業の血のにじむような代替調達でどうにか延命している状態だが、根本的な治療には至っていない。

証券各社の分析によれば、この影響が本格的に牙を剥くのは早ければ2026年4〜6月期、遅くとも7〜9月期だとされている。

帝国データバンクの調査では、全国約4万6,741社がナフサ関連製品の調達リスクに晒されている。

すでに奈良県の地場メーカー(負債14億円)がナフサ不足による事業停止で自己破産に追い込まれた。

今年の夏は、気温だけでなく倒産件数も記録的な猛暑になりそうだ。

投資家としてこの惨状を眺めるとき、とりあえずエネルギー株を買えばいいなどという短絡的な思考は捨てるべきだ。

石油化学の川上から川下まで、サプライチェーンのどこが壊死しているかによって、企業へのダメージは全く異なる。

住宅セクター、食品容器、化学品メーカー。各社の決算と業績見通しに対し、ナフサの調達コストと在庫状況を厳しくチェックすることが、今後の銘柄スクリーニングの必須科目になる。

【まとめ】ポテチ白黒・TOTO受注停止・エチレン最低稼働——根っこは全部同じ
  • 2026年2月28日、ホルムズ海峡が事実上封鎖。日本の原油・ナフサ輸入の約90%に絶望的影響
  • ナフサとは石油化学製品の原料。グラビア印刷の溶剤もナフサ由来のため、色数を減らすことが直接の節約になる
  • 民間ナフサ在庫は約20日分のみ。原油と違い国家備蓄制度の対象外という構造的欠陥がある
  • TOTO受注停止・LIXIL供給調整・日本ペイント75%値上げ・カルビーパッケージ2色化と影響は全方位
  • 国内エチレンプラント稼働率は2026年3月時点で68.6%(1996年統計開始以来の最低)。ガソリン補助金の副作用でナフサ生産が絞られている
  • 終息の見通しはなし。影響の本番は2026年夏以降と警戒されており、銘柄選別でのナフサ調達チェックが必須になる

ポテチが白黒になる理由を、構造的に説明できる人間が今の日本にどれだけいるだろうか。

遠い中東の地政学リスクが、深夜に貪るお菓子の袋にまで容赦なく貫通してくる。

そんな恐ろしい時代に生きているという自覚だけは持ちつつ、私は今日も淡々と、そして無表情にインデックス投信を積み立てる。

世界がどうなろうと、私のやることは何も変わらない。だが、世界が静かに壊れていく理由を知っておくことくらいは、暇つぶし以上の意味があると思っている。

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